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日本下水道新聞-社説・解説

新しい下水道パラダイムを

2007年10月24日

  安倍晋三首相の突然の辞任表明に伴う空転国会も福田新内閣の誕生でようやく正常化した。8月末に各省から財務省に提出された20年度予算概算要求を巡る予算戦もいよいよ本格化する。政府の骨太の方針では、11年度までにプライマリーバランスの黒字化を目標に公共事業費は5年間に渡り1~3%削減するとしている。政府は、新年度もこの基本路線を堅持する方針だ。
 だが、福田首相は、これまでの一律の公共事業費の削減には問題があるとして公共事業の概念を変えるべきとの考えを表明している。この考えが今後の公共事業政策にどう反映されるのか、定かではないが、少なくとも、これまで十把一絡げに扱われてきた公共事業に対する考え方に一石を投ずるものと受け止めたい。
 下水道事業も旧概念を打破し、新しい概念を内外に積極的に発信し、国民の理解・共感を得るとともに、政府や財政当局にアピールすることが肝要ではなかろうか。下水道事業の新しい概念は、去る6月に下水道政策研究委員会がまとめた「下水道中期ビジョン」や社会資本整備審議会下水道小委員会の報告「新しい時代における下水道のあり方」に集約されている。 そこには、これまでのパラダイムを超えた下水道事業の新しい概念や役割が盛り込まれている。
下水道事業は、地域住民の生命・財産を災害等の危険から守り、安全・安心な暮らしを支える基幹的な社会資本である。近年は全国各地で豪雨による浸水被害が頻発し、家屋の倒壊・流出に止まらず、死者さえ発生している。雨水の浸透施設や貯留施設等を整備し、そうした被害から守るのは下水道の役割である。地震の発生時に下水道施設が破損し、トイレが使用できなくなれば被災住民の生活や健康に著しい影響を与える。地震に強い下水道づくりも不可欠だ。そうした下水道の役割や使命を外界に向けてより鮮明に打ち出すことが必要であろう。
 また、下水道は良好な水環境や自然環境を創出する環境保全事業でもある。汚水や雨水を集め、処理し排除して快適な生活環境や公衆衛生の向上に寄与するだけではない。河川や湖沼、内湾など公共用水域の水質保全に多大な貢献をしている。東京の神田川に多数の鮎が戻ってきたのも下水道が整備されたからにほかならない。そうした水環境の改善に下水道が重要な役割を果たしていることをもっと内外にアピールすべきと考える。
 さらに、下水道事業は処理水や下水汚泥を資源として再生利用する資源循環型事業でもある。従来は処理水を処理して排除することに重点が置かれていた。いまや処理水を修景用水や道路撒水などに再利用する水循環事業へとシフトしつつある。下水汚泥も廃棄物として焼却処分することからコンポストやセメント原料に、また汚泥を炭化して発電の代替燃料に、さらには消化ガスからバイオ天然ガスを創り出し自動車燃料に再利用するなど資源循環型事業への性格を強めている。政府の主導する循環型社会形成の重要な一翼を担っているのだ。
 下水道事業は、確かに公共事業ではある。が、いま国民がもっとも望んでいる安心・安全対策事業、環境保全事業、資源循環型事業であることをもっと前面に押し出した新しい概念を政府・与野党、国民に広く浸透させるべく啓蒙活動を展開することが下水道関係者に課せられた課題と思う。
 国民を災害等から守り、良好な環境を創出し、活力ある社会を創造する下水道の実現は、国民が等しく要望しているところ。その要望を実現するには、浸水対策や地震対策、合流式下水道の改善、高度処理の整備、資源循環システムの構築等をすすめなければならない。未普及の解消も都市と地方の格差解消や活力ある地域づくりへ急務となっている。管路の老朽化等による道路陥没事故が年間4000~6000件も発生している。それら施設の改築更新も放置できない課題だ。にもかかわらず、こうした事業への取り組みは遅れているのはなぜか。 
 原因は多々あろうが、最大のネックは財源難にあるとみる。国の補助金は、政府の公共事業抑制策によりここ10年来減少の一途。自治体も厳しい財政難に喘いでいる。一般会計から下水道事業への繰り入れも縮減され、使用料収入も人口減少や高齢化で伸び悩み、下水道財政の逼迫化に拍車をかけている。このような状況下では、立派な政策や目標を掲げても、実行は期しがたい。この難題ー財源問題をどう打開するのか。下水道事業の持続的な発展を占うキーポイントであろう。
 その意味で20年度下水道予算編成の行方も注目される。概算要求基準は、対前年度比3%減の2割増が上限。国交省が、この政府方針に基づいて提出した下水道予算概算要求は、重点施策推進枠280億円を含めて国費8004億円(対前年度比15%増)、補助対象事業費1兆5522億円(16%増)、総事業費2兆4771億円(17%増)。概算要求基準の上限ぎりぎりの要求だ。これとは別に内閣府が汚水処理施設整備交付金を要求しているが、内容は明らかにはされていない。また、新規要求事項としては、雨に強い都市づくり支援事業の創設、長寿命化支援制度の創設など5項目に渡っている。だが、これらは、あくまでも概算要求である。政府方針である対前年度比3~1%削減の枠を突破することは容易ではない。要はいかに削減幅を縮小し、次年度以降の予算編成に繋げていくかであろう。
 そのためにも、全国の下水道関係者が一丸となって、国民が嘱望する安全・安心・環境・活力・暮らしに寄与する下水道事業の新しい概念を政府・財政当局に粘り強く訴えていかなければならない。他の公共事業には無駄とか不要といった声を聞いても下水道事業には寡聞にして聞かない。20年度には、新しい社会資本整備重点化計画もスタートする。下水道事業の新たな役割と多様な政策課題を盛り込んだ重点化計画を策定し、それを達成するべく下水道予算の拡充をぜひ期待したいものである。


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