第34回

温泉、鉱泉、療養泉

益子 保
一般社団法人日本温泉科学会事務局長
益子温泉調査事務所代表
草津湯畑(2021/11/16益子撮影)
草津湯畑(2021/11/16益子撮影)

2025年12月1日

別表

環境省は毎年、温泉利用状況の統計を発表しています。最新(令和5年度)のデータでは、源泉総数は27,920、湧出量は約250万L/min、温泉地数(宿泊施設のある場所)は2,857、宿泊施設数は13,179、宿泊者数は約1億2000万人/年に達しています。日本の人口は1億2400万人(令和6年10月)ですので、老若男女を問わず、日本人は年に1回(泊)は温泉に宿泊している計算となります。
その温泉の定義は、昭和23年7月に公布された温泉法によって、「地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素と主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう」とされています。
別表では、温度として源泉から採取される時の温度(ゆう出温度)が25℃以上、物質として19の物質(ガス性のものを除く溶存物質や遊離炭酸(CO2)など。)が規定されています。温度と物質の両方を満足する必要はなく、規定物質を規定以上含んでいれば、冷たくても温泉になります。普通の地下水と思っていたものが温泉であったということも珍しくありません。
温泉には水蒸気およびその他のガスも含まれます。ガスを含む温泉としては硫化水素を伴う硫黄泉、CO2を多く含む炭酸泉などが知られています。最近注目されている地熱発電に用いられる熱水を伴う蒸気は立派な温泉ですし、熱水も温度や含有物質量から温泉の要件を満足するものです。
炭化水素と主成分とする天然ガスは、鉱業法による鉱物資源の一つ(可燃性メタンガス)であるため、温泉の定義から除かれています。しかし、メタンガスに付随する水は古海水(化石海水)と区分される水であって、温泉そのものです。
一方、温泉の分析法を定めた鉱泉分析法指針では、水蒸気その他のガスを除いた液態の温泉を鉱泉と定義しています。温泉は浴用水としての利用がほとんどであること、水蒸気やガスを分析するのが困難であること等から鉱泉を再定義し、これにより温泉分析法ではなく鉱泉分析法としているのだと思います。俗に、低い温度の温泉を鉱泉と称することが多いですが、温泉法の枠組みでは以上のような区分けがされます。
また、鉱泉分析法指針の中で特に治療目的に供し得るものを療養泉と定義しています。療養泉には塩化物泉や炭酸水素塩泉などの泉質名が付けられ、温泉分析表別表として適応症・禁忌症の一覧表が付けられるのも特長です。

益子 保 ましこ・たもつ

益子 保

ましこ・たもつ

1953年8月生まれ、群馬県出身。1976年3月に東海大学海洋学部海洋資源学科卒業後、同年4月に財団法人(後、公益財団法人)中央温泉研究所に入所し、各地で温泉の開発や温泉資源保護のための調査に従事。2019年8月に同所を定年退職し、同年9月に益子温泉調査事務所を開設し、これまでの経験を生かして温泉地が抱える問題に対処している。
一般社団法人日本温泉科学会 http://www.j-hss.org/

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